時は1852年、場所はロンドン ドルーリー・レーン王立劇場。
その場所に取り憑いている灰色の男幽霊、グレイ。
彼の元にある一人の女性が「自分を取り殺してくれる」と奇妙な依頼をしに訪れた。
彼女は後に世界中の人々に知られ、
彼女とその教えを受けた人々によって数え切れないほど多くの人を救った女性。
その名は…
フロレンス・ナイチンゲール。
後に「ランプの貴婦人」と呼ばれ、現代に受け継がれる”看護”の礎を打ち立てた偉人である。
クリミア戦争で残された銃弾が真っ正面からぶつかって出来た”かち合い弾”
ドルーリー・レーン王立劇場に現われていたという灰色の男の幽霊。
そして、世界に知れ渡る看護の偉人、フロレンス・ナイチンゲール。
全く関係が無さそうなイギリスに纏わる3つの伝記を、
藤田和日郎さんが奇怪で奇天烈で奇跡的な物語に仕上げたのが、
この「黒博物館ゴーストアンドレディ」になります。
これはもう本当に凄かった。
藤田和日郎さんの圧倒的な物語の構成力が冴え渡っており、
ラストにおける物語の畳み方の美しさは見事の一言。
また、自ら”看護”の道を切り開こうとするナイチンゲールがぶつかる、
頑迷な人々という、数々の困難を乗り越えていく強さもまた凄い。
グレイに取り憑かれてから少しずつ、そして確実に強くなる彼女の姿は美しく、
そして何よりも苛烈でした。
それにしてもクリミア戦争における問題人物、ジョン・ホールの憎らしさが半端ないですね。
この人、実在の人物であり、実際にナイチンゲールに数々の嫌がらせをしたんですよね。
それをもう藤田和日郎さんが嬉々として憎さ500%で描くからヒドい。(笑
現代日本で言うと新国立競技場の件で有名な森喜朗みたいなもんでしょう。
自分の見栄と面子を守るためだけに、他人の不幸を屁とも思ってないクズ中のクズ。
そんな悪役を最後にはきちんと成敗してくれるからスッキリするんですよね。
そこら辺は流石は藤田和日郎さんらしかったです。
そして何よりも藤田和日郎さんらしかったのはナイチンゲールとグレイの関係性。
うしととらのように、人間とそれに取り憑いた幽霊の相棒という関係性。
うしとらと違うのは二人が男と女ということ。
ナイチンゲールがグレイのことを知って徐々に惹かれていく様子もまた愛らしいんだよなぁ。
90歳で亡くなるまで生涯未婚だったナイチンゲールが愛した幽霊・グレイ。
彼女の最期で二人が再会したラストは本当に素晴らしいの一言でした…
「黒博物館」シリーズの第2弾は浪漫溢れる素晴らしい伝奇物語でした。
またの出会いを楽しみにしたいと思います。
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